2010年04月

2010/04/04

BTはCVRもCPMも2倍伝説について考える

世の中的には花見盛りな週末のようですが、また風邪をひいて寝込んでいる今日この頃です。たぶん私の体には何かが足りてません。何かが。
(記事)行動ターゲット型オンライン広告は価格も効果も2倍
(原典)STUDY FINDS BEHAVIORALLY-TARGETED ADS MORE THAN TWICE AS VALUABLE, TWICE AS EFFECTIVE AS NON-TARGETED ONLINE ADS
今週ネット広告界隈をかけめぐった『BT(行動ターゲティング)はCVR2倍だけどCPMも2倍』というデータに、直感的に強烈な違和感を感じたのでしっかり原典を読んでみました。というよりは、「ターゲティングとか結局高いからCPA変わらないし、広告主にとって意味なくね?」という流れが最悪なので。

まず、これを執筆したのはHoward Bealesというジョージ・ワシントン大の准教授で、元々はFTCのプライバシー保護のディレクターという経歴の持ち主。そして、米国のネット広告業界団体であるNAIがスポンサーになって米国の12のアドネットワークから回答を得た調査です。うち、comScoreでのTOP15のうち9つのアドネットワークが含まれています。なお、米国にはNAIとIABの2つのネット広告業界団体がありますが、その経緯は知りません。NAIはプライバシー系、IABは規格やカテゴリの標準化やリサーチをやっているイメージを個人的には持っています。日本では先日社団法人化したJIAAに相当します。

まず、『CVRが2倍』という部分は一人歩きさせてはならない部分だと感じます。これには、2つの問題があります。

ターゲティングはCVRよりもCTRに効くという問題

たとえば、住宅ローンに興味のありそうな生活者だけに配信した場合のCTRは下記のようになります。
  • RON CTR=住宅ローンに興味がありクリックした人÷全ネットユーザー
  • BT CTR=住宅ローンに興味がありクリックした人÷住宅ローンに興味のありそうな人
    ※RON: Run of Network。ランダム配信。
となり、CTRは当然数倍になるでしょう。

一方、CVRはどうでしょうか。
  • RON CVR=住宅ローンの資料請求をした人÷住宅ローンに興味がありクリックした人
  • BT CVR=住宅ローンの資料請求をした人÷住宅ローンに興味がありクリックした人
となり、BTが影響を及ぼすのはCVRに対してではないはずです。リスティングにどっぷり浸かるとCVRに頭が行きますが、世界が違います。リスティングはキーワードがユーザーのインテントを代表しているため、そのインテントごとにコンバージョンする確率が異なるというレイヤーの話ですが、バナーのRONとBTの比較というレイヤーは一段上の話です。Googleのトップページと検索結果画面の両方でのCVRに違いはもちろん出ますが、その数字が仮に2倍だったとして、使えるデータ?ってことです。

統計学的な問題
著者がしつこいくらい、このCVRのデータは少ないから注意してね、と言っていますが、一旦世の中に出てしまえばそのような注意書きは無いも同然になって一人歩きします。

しかも、通常CVRは広告主ごとの平均でも5%から0.05%くらいまで100倍以上の開きがあり、別にそれらの絶対的な数値が良い悪いなんてものはありません。また、CVR平均を使うとしても算術平均ではなく中央値を通常は使うべきじゃないかと思う。また、本来統計データとしてRONとBTは同一広告主の同一キャンペーンでなければなりませんが、おそらく異なる広告主でしょう。QごとのCVR数値のばらつきが大きいのはこの影響もあると思います。

さらに、明確に平均の算出方法が記述されていないためわからないが、アドネットワーク内での平均をさらに平均した数字であると思われるため、ほとんどデータは死んでいると言ってもいい。人間が男女40人のクラスと、チンパンジーが雌雄30頭のクラスと、ダニが雌雄100匹のクラスがあり、各クラス(3)の男女別(2)平均身長の、さらにその6つの数字から男女別平均身長を出した時に、その数字って何か意味あるかい?と。

クライアント単位のデータがまず存在し、CVRを標準化得点なりに変換してスコア化するなり、平均値・中央値・標準偏差・社数くらいを最低限出さないと、世の中に出すべきじゃないと思う。もしくはDIみたいに超単純だけどもっと正しく体現する指標なり。クライアント単位のデータなど、現実運用として不可能だと思うんだけど。CVRの統計的数値に関しては、統計学になじみの薄いマジョリティと合意を形成するのは無理だけれど、逆に専門家は危険性をわかっているのだから出すべきじゃないと思う。少なくとも個人的には誤解を招く危険なデータは上司命令であれ出さない(最近は)。

余談ですが、ネット広告に携わる方々に統計学を学ぶことを推奨するのは、『平均』というものの怖さがわかるからです。このあたりはWeb担さんはたまに特集していますので、ぜひ。

何が言いたいかというと、通常BTではCTRは2倍以上に上がります。CVRは絶対的な指標を出すことは難しいし、このレポートの「2倍」という数字には何の意味も無いと思う。

と、ここまでで想定していた内容の10%にも満たないので、巻きます。
  • リターゲティングのCPMがBTのCPMよりも安いのは、課金体系が区別されてないので何も言えない。一般に、RONと比べてBTはCTR2倍、リタゲは5倍というのが公開されているデータとしては多い。CPC課金はCTRによってCPMが変動します。CPM/CPC/CPA課金を分けていたら非常に有用な情報だったのに。
  • というか、CPMのデータは課金形態別でなければほとんど読者にとって意味をなさない。結果を知れるだけ。
  • 総アドネットワークでのBT売上比率は18%程度
  • BT提供アドネットワーク内でのBT売り上げ占有率平均は41%程度
  • アドネットワークから媒体への支払いコストは売上の55%程度(マージン率というわけではないので注意)
  • アドネットワークからデータプロバイダへの支払いコストは売上の9%程度
  • BTのカテゴリ別データは筆者の指摘通り、無理矢理9つの大カテゴリに振ってしまっている上、サンプル数も少ないだろうし、データとして死んでいる。
  • 基本的に、BTは媒体にも収益増という大きなメリットをもたらしている。
結論ですね、『CVRもCPMも2倍』というコピーは使うべきじゃないと思うわけです。意味は無くはないけど。別に広告主にメリットを見せられる数字でもないし。むしろこのレポートはそれ以外の情報の方がおもしろい。で、ターゲティングは課金方式の違いやクリエイティブといったところとの掛け合わせで最適化すべきなので、2倍!2倍!みたいなものには何の意味もないだろなと思った次第。