2010年06月

2010/06/26

『トリプルメディアマーケティング』を読んで考えた未来のメトリックス

トリプルメディアマーケティング ソーシャルメディア、自社メディア、広告の連携戦略トリプルメディアマーケティング
ソーシャルメディア、自社メディア、広告の連携戦略

著者:横山 隆治
販売元:インプレスジャパン
発売日:2010-06-25

ADKインタラクティブの横山さんの新著を読みました。既存の広告枠などの買うメディアを"Paid Media"、自社サイトなどの所有するメディアを"Owned Media"、CGMなどのクチコミやパブなどの信頼や評判を得るメディアを"Earned Media"と定義し、その戦略について書かれており、大変勉強になります。特に日頃CPAに血眼になっている方のほうが読まれた方が良いかもしれません。CPAというワードは一ヶ所も出てこない気がします。トリプルメディア×自己関与度&情緒・理性的購買×パーチェスファネルのマトリックスが好きです(p.36)。そして広告会社はメディアハンドリングの暗黙知がキーになっていくのだろうなぁと思いました。アルゴリズムやオペレーションではなく、暗黙知。

さて。私はこれまで「ソーシャル」という言葉には正直あまり興味を持っていなかったのですが、俄然興味が湧いてきました。きっと、Eaned MediaとOwned Mediaは測定してもらいたがっているんじゃないかと。これまで、広告枠であるPaid Mediaの効果測定は行われてきましたが、EanedとOwnedはCPAのような明快な基準が設けられず、測定が難しい。それゆえにOwned Mediaの企画は売りにくく、価値も上がりづらい。ブログ・SNS・クチコミサイトなどのEaned Mediaの広告枠はCPAが良くないことが多く、CPMは極限まで落ちる。広告枠としての価値が低くとも、コンテンツの価値があったかもしれないのに。本当はオーディエンスの態度変容を導いたダイヤモンドが埋まっていたかもしれないのに!

そこで、アトリビューションモデリングをさらに拡張すれば良いのではないかと。アトリビューションモデリングとは、アシストやポストインプレッション(ビュースルー)効果を拡張したようなものですが、それにトリプルメディアの概念を入れるべきなんじゃないかと。これまで私はオーディエンス行動データと広告主サイトのデータを統合した分析はしてきたんだけれども、広告主サイト内でオーディエンスの意識がどう変わったかについては考えていなかった。ただ、ここは非常に重要であり、測定すべきポイントなのだろうなぁと。

前提として、オーディエンス行動データ(NOTオーディエンスカテゴリ)と広告主サイト訪問データ(NOTサマライズドデータ)が統合されている必要がある。ただ、たとえば私の勤務する会社では広告枠データと広告主サイト訪問データを合わせると月間2.5億UB(ユニークブラウザ)以上あるのだけれど、これでも行動データの方はまだまだ足りない。行動は欠けてばっかりさ。これを仮にどこかの一社で囲い込もうとしても絶対に無理で、お互いの価値向上のために手を携える必要がある。

そして、広告主サイト内でのオーディエンスの態度変容みたいなものはデータの取得可能性の面でもコストの面でもテーマの面でもアカデミック世界ががんばったらいいのではないかなと。企業は儲かりづらくて霧のかかった領域には進みづらい。たとえば正確なテキストマイニングだけができたとしてもお金儲けは難しいのだけれど、オーディエンスの態度変容を導いたコンテンツを浮かび上がらせる技術ができれば売れる、とか。とても資金の乏しいベンチャーの人材の時間を使っては研究できない。学会ではクロールデータとかWikipediaとかSBMとか過去の新聞やメールデータとかの解析を目にすることが多いんだけれど、特定広告主サイトのログデータだったら協力するところがあると思うのだけれど。(商学部がんばれ!出身学部として)

広告は「生活者に買ってもらうにはどうしたらいいの?」という問いへの回答だったんだけれど、今後は「なぜそのお客様は買おうかなと思うようになったの?」という問いへの回答を導き出し(メトリックス)、その回答から広告やメディア最適化するような流れになれば、面白いなぁ。



2010/06/21

インターネット白書2010の行動ターゲティングの項に寄稿しました

インプレスさん発行の『インターネット白書2010』の『行動ターゲティング広告の概要と最新動向』の項に寄稿させていただきました。

びた一文、私の手元には原稿料が入ってこないことを哀れむ方は、以下のアフィリエイトリンクから購入すべきです。

インターネット白書2010インターネット白書2010
著者:インプレスR&D インターネットメディア総合研究所
販売元:インプレスジャパン
発売日:2010-06-17


2010/06/06

GoogleによるInvite Media(DSP)買収は火薬庫に?

米Google、広告リアルタイム入札サービスのInvite Mediaを買収
Investing in exchange bidding - DoubleClick Advertiser Blog
以前からの噂通り、GoogleがDSP(Demand-Side Platform)企業を買収しました(DSPの解説)。見事Exit競争に勝利したのは弱冠25歳のCEOが運営するInvite Media。金額は非公開ですが、$70Mと言われているので、これがDSPの基準価格となるとすると、ちょっと安いような気もしています。(十分高いという声もある)

このニュース自体は業界内では予想通りなのでよいとして、やはり気になるのが今後の計画です。

まず製品ロードマップについてですが、現在のところGoogleの広告主向けアドサーバー製品であるDoubleClick for Advertiser (DFA)と統合を進め、Invite Media自身も独立した製品として残すため、代理店や広告主は必ずしもDFAを使わなくとも良い、としています。日本では広告主向けアドサーバーは非常になじみが薄いと思いますが、広告主が広告配信を一元管理できるコクピットであり、第三者配信と呼ばれる手法です。DSP自体が広告主向けアドサーバーでもありますので、アドサーバーとDSPが統合されるのは自然な流れです。AdWordsとの統合については未定としています。AdWordsはテキストに最適化されているし。

さて。問題は、立場のところです。DSPは複数のアドエクスチェンジ&Yield Optimizer(SSP)と接続されている統合管理ツールです。つまり、特定のアドエクスチェンジ運営企業の傘下に入ることで、第三者的な立場が失われますので、非常に微妙な空気が流れることになります。たとえばGoogle Ad Exchangeでの振る舞いにGoogleのDSPであるInvite Mediaが有利になるといったことも可能となります。Googleしか持ち得ない必涎データをInvite Mediaが活用するかもしれません。可能となるだけで、もちろんGoogleはこれを否定していますが。また、たとえばGoogle傘下であるInvite Mediaを通じてYahoo!(RightMedia)の枠を購入することになります。Yahoo!が広告を配信するたびにマージンがGoogleに落ちます。DSPは電子レップですので、Yahoo!のレップがGoogle?ん?ん?

657px-Balkan_topo_enそしてその先に。Y!, MSFT, AOLなどが残ったちょうど良い数のDSPを買収し、火薬庫を抱えた冷戦に突入する可能性があります。(AppNexusはインフラ寄りのポジションで独歩すると思いますが。)そうこうしているうちに、市場原理主義よりも保護貿易主義の方がメリットが大きくなるプレーヤーが現れます。誰かが保護主義(鎖国)をはじめると、世界に保護主義が蔓延し、アドエクスチェンジ生態系が崩壊します。めぐりめぐって、ネット財閥に売却しなかったDSPが、数年後にぽわっと浮かび上がるなんてこともなきにしもあらずなのかなぁなんて。

ということで、米国が生み出した奇跡の広告エコシステムを崩壊させるリスクを重々承知の上でDSP買収に踏み切ったわけなんだろうなぁ。まぁGoogleにとってのエコシステム崩壊はリスクでは無いだろうけれど。火薬庫を作るのを承知の上でというか。ネット広告に携わる人間として、Googleのインフラ技術&データとInvite MediaのRTBシステム&知恵&他アドエクスチェンジデータが統合されることは、とてつもないことができるという意味でわくわくしますが。

Invite Mediaがネット広告のバルカン半島にならないことを祈るばかりです。