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次世代マーケティングリサーチ
次世代マーケティングリサーチ
萩原 雅之

ブログ書くのが若干怖くなっている今日この頃。書評でウォーミングアップを。

 本書は日本のネットレイティングス代表としておなじみ(現トランスコスモス・エグゼクティブリサーチャー)、萩原さんによる新しいリサーチの話。1年半以上前に書いたこの記事で触れたような内容が書かれていて、大変共感。まさに本書と同じことをずっと思っていた。

「消費者に伝えること」が生業である広告業界と、「消費者を知ること」が生業であるマーケティングリサーチ業界。この二つの業界の垣根が低くなっていくことが必要だと以前から思っていた。それは前の職場で広告代理店にプレゼンをされる側にいたときによく思ったのだけれど、プレゼンで「まずはマーケから」としてリサーチ結果を説明され、その次に具体的な提案に移るのだけれど、そこの流れがどう考えても断絶しているものが多くて。これは誰が悪いとかいう話ではなく、技術的・コスト的に不可能だったからだと思う。でも、きっと今は違うアプローチができるはず。特にインターネットを利用すると多くのことは可能になる。そして、そこに本書はフォーカスを当てている。

本書に書かれているテーマとしてはこんな感じ。生活者に欲しいものを聞くのではなく、生活者のインサイトをえぐり出して製品開発を行う。ソーシャルメディアをクチコミ伝播の場ではなく生活者の声を聴く傾聴の場として使う。ウェブ以外にも広がるセンサーなどのログの世界。電話や紙のアンケート調査の時代からネットリサーチになり、次にマーケティングリサーチ業界の目の前に迫る破壊的イノベーション。「次世代マーケティングリサーチ」というタイトルは実にハマる。

なかでも、新しいデータ利用の発想の6つが刺さる。
  1. 問題意識を持って調査を設計しデータを集めるだけでなく、蓄積されたデータから問題意識に沿って検証する
  2. 集団の特性を数字で定量的に理解するだけではなく、ひとりの人間のリアリティを想像し大切にする
  3. 時系列での変化を見るなら、同じ個人や調査対象から継続的にデータを収集する手段はないかと考える
  4. リアルタイム性が高いほど情報の価値は高まる。ストリーミングや動画のようにデータを語らせる
  5. どう思ったかだけではなく何が起こったかを重視し、観察や再現性のある実験など実証的な技法を取り入れる
  6. 人や商品を単独に考えるのではなく、人と人とつながり、人と商品のつながりもデータとして扱う 
特に1, 2, 3はイイネ!を5回くらい押したい。
 
ログ解析によって、リサーチの世界は大きく変わるだろう。トラディショナルなアンケートの世界から、ログの世界へ。これはアンケートを駆逐するという意味ではなく、アンケートと行動やセンサーなどを組み合わせることが当たり前のようになるだろうという意味で。

とはいえほとんどのネット業界人はトラディショナルな手法を知りません。正直ボクは統計的に優位かどうかの検定というのを業務としてやることはまずありません。そもそもサンプリングをすることが無いというのがひとつの要因なのだけれど、それが有意かどうかが知ることが目的なのではなく、効果的っぽかったら実装すればいいじゃん別に有意じゃなくてもどうせ複雑で説明できない環境にぶちこむんだからさ、という理由で。(もちろん本番投入後にイマイチなパフォーマンスだったら切り戻すんだけど。)ただ、先人の積み重ねた貴重な資産はもちろん吸収しなければならない。

デジタルなリサーチによって、調査・分析から施策展開までのタイムラグが縮まる。もちろん大掛かりな広告キャンペーンや製品開発では途中からの軌道修正は難しいのだけれど、ことネット広告の世界はこのリアルタイムなマーケティングサイクルの世界に相性の良い領域。誰に(ターゲティング)どこで(掲載面)どんなメッセージを(誘導先サイト・バナークリエイティブ)届けるかをデータから得られた知見を基にダイレクトにリアルタイムに施策に展開することができる。言葉通りシームレス。

もっと具体的に言えば、広告主のサイト訪問者(オーディエンス)の分析結果を広告配信ロジックに活かすことができる(これはアクセス解析とはだいぶ違うことを指してる)。サイト訪問者を基点とした総合的なマーケティング活動を行う世界がもうすぐそこに。そこでは、自社サイトは単なる”ホームページ”ではもうない。

#ところで、外資系企業はリサーチ業務を広告代理店経由ではなく、プロモーション施策とは第三者のリサーチ会社に発注して客観的に評価させるそうだ。確かに。