気づけば3年以上ぶりのブログポストになってしまいました。その間、一体何をしていたのかをご説明しましょう。



本日プレスリリースを出しましたが、実は2021年10月1日付で株式会社ジオロジックの株式をスマートニュース株式会社へ譲渡し、完全子会社になっておりました。当初はグループ入りについて早々に一般公開するつもりだったのですが、様々湧き起こる事案によって度々延期され、潜伏期間は気づけば2年半にも及んでおりました。その間、素知らぬ顔をして対話をしてしまった皆様にはこの場を借りて心よりお詫び申し上げます。

さて、ジオロジックは2018年頃から上場準備を進めていました。ところが新型コロナウイルスの影響による2020年3月からの売上急減に追い打ちをかけるように、6月22日にはAppleがWWDCにおいてIDFAをオプトイン化することを発表しました。WWDCの翌日には、ファーストパーティーデータの時代になるだろうという悟りの境地に至っていました。これによって事業の不確実性が高まり、結果的に上場を断念することになりました。慣れないアドテク以外の事業の道も探ったりしましたが、アドテクのアセットを活かせる最強のパートナーとタッグを組む道も同時並行的に模索していました。私たちがSmartNewsグループ入りしてしばらく経った後、Appleに追随してGoogleもAAIDを廃止する宣言を出して世界の方向性は決定づけられたので、私の読みは間違っていませんでした。

ジオロジックは外部環境の急変によって急遽M&A路線に転換しました。私は性格的に過大なリスクを取らない主義なので、当初からM&Aという選択肢も想定し、あまりにも高いバリュエーションでの優先株の発行は行っていませんでした。案の定、外部環境の急変への対応ができましたし、株主様の合意も得た上でM&A交渉を進めることができました。起業家の性格にもよりますが、窮地に陥ると超サイヤ人になるような人種ではない、普通の人はバリュエーションを上げすぎないほうが良いという思いを強くしました。

同じ渋谷は桜丘を創業の地とするSmartNewsの傘下に入り、グループ入り初日からオフィスも同居しています。当時はまだコロナ禍で、誰もいないがらんとしたオフィスの中を体育会系気質のジオロジックメンバーが出社して転げ回っていました。SmartNewsは日本発の企業の中でトップクラスのMAUやインプレッション数、データを持っています。さらにほとんどのアドテクスタックはなんと自社開発なのです。なかなかGeoLogicとのシステム連携が進まずに悶々とする日々もありましたが、晴れてファーストパーティーデータを使った広告配信が可能になった今、ようやくのお披露目となりました。独立した子会社として経営を続けてきましたが、組織融和や共通化といったPMIもだいぶ進みました。

グループ入り後に驚いたのが、大きなTAMを狙う戦略と綿密な計画を組むスタイルが組織の末端まで浸透していること。スタートアップ世界は、とりあえずいろいろやってみて、ウケたら磨き上げるスタイルなので、計画なんぞ無いに等しかった。SmartNewsは眩しすぎるほどの経歴のメンバーが世界中から集められ、議論を戦わせながら戦略が遂行される。日本にいながらにして外資系企業にいるような、でも本社の裁量があるような環境、他にはあまり無いでしょう。

次に驚いたのが、英語。公用語が英語とは明示的に宣言はされていないと思いますが、プロダクトサイドのドキュメントやコミュニケーションに日本語は存在しない。私は生来英語を苦手としており、受験は英語で失敗、商談や契約交渉、転職活動も英語の壁に幾度となく阻まれてきました。苦汁をなめ続けた人生に終止符を打つべく、英語学習への累積投資額は軽く300万円(補助金および補助控除前)は超えている気がしますが、未だにビジネス現場で使い物になりません。そんな中、私はなんとか息をしながら、AIによるほんやくコンニャクの登場を待つ日々を送っています。有り難いことに、売却から2年半が経過してもジオロジックの中核メンバーのほとんどは残ってくれています。荒くれ者の我々をスマートに迎え入れてくれたみなさんのおかげです。独立系の頃は日本のみで事業展開するドメスティック企業だったため、高い英語能力は必要とされていない条件下で入社した若者たちが、グループ入り後には英語を必死で勉強してグローバルなチームと一緒に仕事をしているたくましい姿には、おじさん胸を打たれます。

少しはアドテクの未来の話もしておきましょう。CookieにせよIDFA/AAIDにせよ、サードパーティーユーザーIDというのは独立系ベンダーが事業を立ち上げやすいものでした。サードパーティーユーザーIDが実質的に無くなるということは、ネット広告はファーストパーティーであるプラットフォーマーの世界になるということを意味します。その世界においてアドテクは滅びるのではなく、プラットフォーマーの内なる存在になっていくでしょう。当然位置情報広告も、巨大プラットフォームだけが提供可能なものになります。一方で、独立系アドテクベンダーとして第三者的に事業を展開するよりも、プラットフォーマーの中の機能になった方がそのシステムから発生する売上としては何十倍、いや何百倍ものレバレッジを効かせられます。これがソフトウェア産業の醍醐味ですね。(ちなみに、プレミアム媒体での共通IDソリューションは有効だと思ってますし、可能性を探り続けたいと思っています。)

思い返せば私が子どもの頃は、氏名・住所・電話番号などが記載された名簿やイエローページが当たり前のように存在し、流通していて、その情報をもとにした営業電話や訪問販売がひっきりなしに来ていた時代でした。しかし、人々の生活を不快にさせるビジネスは、今では消えて無くなりました。時代の変わり目というのは、振り返ってみればそんな時代もあったなと感じるようなことなのだろうと思います。ファーストパーティー時代への転換によって広告による不快な体験を減らし、良質な情報としての広告を必要な人に送り届けるための活動を行っていきます。

SmartNewsは大型プロジェクトも進行中で社内は活気に満ちており、少しスタートアップに戻ってきたようにも思います -数奇な人生- 。私はといえば、外資の苦手なところを突くスタイルを相変わらず徹底していこうと考えております。長い長い潜伏期間の間に仕込んでいたものを矢継ぎ早にリリースしていきますので、今後の活動にご期待ください。それではまた、数年後に。